2007年12月12日水曜日

見たくないもう一人の自分

食事を済ますといつものように手のひら一杯の薬を服用する。色とりどりのあずき錠やらカプセルを2~3錠づつ分けながらボトルの水と交互に口に運んでいく。小食の彼女は薬の方が多いと思われるほどで薬で生かされているような感覚だ。僅かの動作で疲れるらしく、ソファーにもたれていることが多い。小さなリビングには不釣合いな大きなソファーで、雑誌を広げたり郵便物を見たり時間の多くをここで過ごす。薬の副作用も手伝ってそのままうたた寝に入ったりする。決して身体にいいとは言えないのでベッドで休むよう肩を揺するが、大抵生返事で終わる。連れ合いの話で始めたが、実はここに出てくるソファーについて触れておきたいと思った。このアパートに移ったとき買ったのでかれこれ15年はこのリビングに居座り続けている。汚れが目立たないようにと選んだ深緑色のものだが15年もそのままにしておいて汚れていない訳が無い。今となってはこの深緑が恨めしい。居座り続けている、と記したのもあまり良い感情をこのソファーに抱いていないからだ。横になって休めるようにしっかり奥行きが取ってある為普通のものより一回り大きい。最初は便利な気もしたが、座って背もたれに掛かろうとすると自然腰の角度は水平に近いものとなりうたた寝体制に入ってしまう。そのうちにそこに腰掛けると条件反射のように眠気が襲い、更に度が進んで睡魔に引き込まれた状態になる。休んでも休んでも疲れは取れず、起き上がる意思を全くそがれる。休んだ後のすっきり感は皆無で休めば休むほどゲッソリ疲れる。ああ、これはここに何か居座っているなと思わざるをえなかった。例えて言うと人の形に成りきらない軟体の生き物と言えば想像できるだろうか。形の定まらない長い手足がそこに腰掛ける人物を背の方からゆっくり羽交い絞めしながら横に倒していく。余程怠惰な妖怪らしく動きはたいそう緩やかで、吸い付いた人物から生気を吸い取っていく。そうはっきりと霊視できるわけではないが、視覚的表現を使うとそう説明できる。ある時、連れ合いがまたそこでうたた寝し始めたので肩を揺すって寝室に行くよう促し、自分は溜まった仕事を片付けようとソファーを背に机についた。彼女は小さく返事をして立ち上がり足を運んでいった、、、、、と思ったのにどうもまだ後ろに気配がある。まだ動いていないのかとやおら身体をひねって目をやると、そこには何と寝そべっている自分がいた。もうひとりの自分を脳裏に映しだした。手足を投げ出して惰眠を貪る自分の姿をはっきりとイメージとして捕らえられた。そこに居座る妖怪か雑多の霊の類に責任逃れをしようとした怠惰という自分の堕落性本性剥き出しの姿がそこにあった。どのような事柄にも自分の本性が投影される。恨みに思ったり忌み嫌ったりするあい対する人物がいるならそれは自分の本性の現れでもある。

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