2019年6月27日木曜日
心に引っかかる或る従業員
ボーイッシュに決めた短髪を揺らし、テーブルや行き交う他のサーバーを上手くかわして狭いダイニングを舞いながら接客していた。颯爽という言葉が彼女にはよく似合っていた。他の従業員が嫌がる仕事も率先して手を付け、マネージャーも従業員の誰も、彼女を悪く言う者はいなかった。もちろん客の受けもよく、彼女のテーブルを指定する客も多かった。彼女も客によく声をかけるしよく笑っていた。でも彼女を最初雇うときは一つも二つも心配があった。サーバーとして既に雇っている別の女性と一緒に住んでいて、ふたりはそういう関係だった。従業員の家族や、恋人の間柄にある者を雇うと、後々何かと問題が起こるのは経験済みで、その類の雇用はなるべく避けていた。だから彼女の時も躊躇せざるを得なかったが、通常の間柄以上の問題を抱えている。しかし当時の人手不足はどうしようもなく、結局先ず雇って様子を見ることにした。全くの杞憂だった。問題が起こるどころか店の空気を一変させて客数は日増しに増えていった。思い返してもあの時の繁盛ぶりは奇跡的だった。魔術でもかけたのかと訝るほど彼女は客を引き寄せていた。どうして彼女のような中性的なものに客は惹かれるのだろうとその理由を探していた。性差が曖昧になるのを原理的観点からは望まれない。しかし本人が持って生まれた性稟は自身でもどうにも抗えない。ひと昔前なら隠して表には出さないようにしていた彼等が、最近では公共の場でもマスコミにでも公にして現れる。これを嘆かわしいと原理原則で断罪し一蹴するのは簡単かも知れない。ではそういう彼等は救われないのだろうか。サタン的存在であって陽陽、陰陰の在り様を変えない限り食口から振り向きもされないのだろうか。祝福二世の中にも必ずいるはずで、彼等のことを思うと本人達も、そして彼等の親たちにしても、原理がわかっているが故の苦しみは地獄のはずだ。食口にも中心者にも誰にも相談できず、それぞれで悶々としながら胸を掻き毟る日々が続く。原理の神様には彼等に対して赦しはない。尋ねるまでもなく生きて地獄を味わえと払いのけられる。唯一残された道は原理を超えた神様を探して求めるしかない。原理を超えた神様を捉え、真の愛の意味を尋ね求めない限り、息をすることも許されない。
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