2007年10月26日金曜日

雑談 盛岡近郊での話

何か寄せ付けようとしないこの感覚は何だろう。盛岡から程近い国道沿いに、古い農家の屋敷が並んでいる。手にした番地を確認しながらその家に辿り着いた時そう思った。御影石の立派な門柱には不釣合いな雑草だらけの庭があり、その奥に寄棟風造りの立派な家がたっていた。それまで寝起きする場所を転々としてきたが、今までの趣とは明らかに違う住居だった。最初の印象はそれとして、忙しい生活に没するとさして目新しいこともなく毎日は過ぎていった。何となく湿っぽい風な感じはしていたが、不便もないし住めば都、それなりに快適だった。ただひとつ気になることはあった。金縛りによく逢う。それまでも時々自分の身に起こってはいたが頻度が多すぎる。それほど深くも考えなかったがそういった朝は疲れが結構身に残った。二階造りになっていて、上の階は女性が使っていた為に間取りは分からないが、下は七つはあったと思う。玄関を入ると真っ直ぐ廊下が伸び、突き当たりを右に曲がると小部屋が二間ある。手前は納戸として使われその隣は仏間だった。仏間とわかったのは後の事で私が入った頃はまだしっかりと錠が掛けられ開かずの間となっていた。何か訳ありのようだが気にも留めなかった。月末になると集金の為に皆は地方の支店に分かれる。自分の担当は市内とこの辺りだったのでひとりでこの家に居残ることになる。そうなると金縛りに逢う頻度は高くなる。ある時、展示会が催される為に商品搬入の人達が仙台からやってきた。住所を頼りに来たがなかなか見つからなかったらしく交番に尋ねたらしい。家について一服したところで、実は、、、と彼らのひとりが切り出した。交番で住所を見せるとその地域の地図と照らし合わせながらさも意味ありげに、「あーここかー。あの事件のあったところか。」と返ってきたらしかった。何の事件かと聞くとあまり触れたくないようで殺傷事としか言わなかったようだ。そこまで知らされて調べない訳にはいかないだろう。どこにでもこういった事に鼻を突っ込む者のひとりやふたりはいる。詳細が暴かれ皆が知る所となるのに時間は掛からなかった。どこにでもありそうな情のもつれからくる殺人事件らしかった。主人に先立たれた女性が雇っていた使用人?と関係があったか何かで、その使用人に仏間で刺されたらしい。逃れようと身体を引きずりながら廊下を這い、玄関のところまで出て息絶えてしまったようだ。後に仏間が開放され責任者が一生懸命お祈りし、聖塩を山ほど撒いて御祓いしたようだが、カビがいった畳にはどす黒い血痕の跡がしっかりついていた。しかしこの家の過去があからさまになってから金縛りはピタッと止まった。晴らせぬ想いを知ってもらいたかったのだろう。それでも月末にひとりになると気味悪い日を送らなければならなくなった。

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