夕刻4時を回っていた。彼女が患者用の衣に着替え、麻酔を打たれて朦朧となりながらも手を振ろうとするのを見送ったのが朝の10時前だった。あれから優に6時間を超えようとしている。手術担当の医師は所要時間として3時間ないし4時間と告げたはずだ。不安が身に被さってくる。こんな想いに身を任すことで不安は現実に変わるぞと後ろの何かが囁き始める。姿勢を一度正し、自分を落ち着かせようと辺りに目をやった。確か十数人はいたはずだ。グラス天上からまばゆいくらいに日の光が降り注いでいた広場も、いつしか電気照明に変わっていた。今は付き添いの者は数えるほどしかいない。先程出てきたドクターに説明を受けていた親子が泣き崩れ腕を支えられている。相対者の手術の様子に対する心配がその泣き崩れる親子から目をそらせてしまった。トイレに立つ気も起こらず呪文でも掛けられた様に、ひたすら緊張して座り続けた。よく考えてもみろ。簡単な手術じゃない。臓器移植だ。時間の掛かるのも当たり前だと自分に言い聞かせて内面を持ち直そうとする。6時にもなろうとする時、やっと見覚えのある上背のあるドクターが自分の所に近づいてきた。私の隣に腰を下ろすと二の腕に手を添え笑みを浮かべた。(All done. Everythinngs are Ok.) 薄緑の手術着を羽織ったドクターの笑顔が、重くのしかかる不安をいっぺんに払拭してくれた。一気に元気の気が足から頭へと立ち昇った。感謝の言葉を唱え続けていた。
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