2008年8月30日土曜日

移民法廷 2

柵の開きを開けようとしたが引くのやら押すのやら。手こずっているのを見かねて弁護士が押し開けてくれた。どうも焦っているらしい。入るべきではないところに足を踏み入れた、そんな感覚だった。右手を上げて誓いを立てるよう要求させられた。上目遣いの裁判官が私を見据える。目の前にすると裁判官の容貌がジャックニコラスに見えてきた。緊張しててもこんなことが頭に浮かぶらしい。日常会話でさえ英語の理解は難しいのにこの場で何を尋ねられるやら、早口で喋るジャックニコラスの口の動きに集中した。名前は何か役職は何か本人とどういう関係にあるか、そこまでの質問の意味は理解できた。しかしその後の質問の意味が良く解らない。YESNOで応えることだけは解った。もうこうなったら二つに一つ。さも解ったようにNOと応えた。弁護士がたじろいだ。YESと言うべきだったようだ。急いで質問の意味がよくわからなかったと裁判官に告げた。ジャックは今にも立ち上がらんばかりに意味が解らないのに応えるなと強く忠告した。もう一度同じ質問を繰り返した。YES。今度はOKらしい。どうもNOという応えは無いらしいと解るとそれからは質問の意味は解らずともYESと言い続けた。長い証言のように思えたが三分もその場には立っていなかったと思う。ジャックが退廷して宜しいと許しが出、やっと度胸試しから開放された。その従業員も私の英語力の無さはよく知っているだろうに、と彼を責めたい思いもあったが事無きを得、不法滞在の罪は消えた。入国当時、彼の国ではコミュニストゲリラとの内戦状態であった。永住権は既に取ってはいるが、ゲリラ活動に参加した疑いが今になって出、それに対する潔白の審議だったようだ。両手では数えられぬほどこのビルに足を運んだらしい。今日が最後だろうと安堵した表情をしていた。それは良かったと一応喜んでやったが、雇い主として内心素直には喜べなかった。ビザの問題が解決すれば何処で働こうが彼の自由だ。

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