2009年6月27日土曜日

リッチモンド店 報告 (2)

或る程度のレストランビジネスの経験がある者なら、買ってまでオペレートしたい物件ではない。マネージメント次第では復活するかも知れないが、売りに出ている物件が左マイであれば、わざわざ買わなくても倒れるのを待てばリースの移譲だけで事足りる。しかし彼は自分の店を持って一儲けしようと言う考えはなく、営業しながら生計を立てられればそれでいいと思っている。ではどうして彼はこのレストランを手に入れようと思ったか。生計を立てるだけであれば支払いの義務を負い遣り繰りに頭を痛めることを無理に選ばなくても、今まで通り誰かに雇われていた方が余程気楽なのだ。仮契約を終えてロイヤーと私を食事に誘ってくれた時に彼が話したことが印象に残った。彼自身は四十過ぎてはいるが未だに独り者で、勿論子供もいない。そのせいだと思うが、一人の甥を自分の子供の様に可愛がっていたらしい。合う度に遊んでやり料理を作ってやり、そして電話で甥に連絡する度に、甥が彼に薦めていたのが、早く自分の店を作って欲しいと言う事だった。その甥が不慮の事故で一年前に死に、いつも口にしていた事が気になっていたけれど、ふた月前甥の事に関する記事が新聞に載った。その同じページでうちの店の掲載が目に付いてこれだと思ったらしい。彼に言わせると、甥がこの店だと指差してくれたのだと言う。一般的な人であればそんな事で一年分の収入を投げ入れようとは思わない。自分の生活の事や懐に入る事を先ず考える。彼の今回の意志は自分の事や金や物への執着から行動を起こしたのではなく、甥への想いから行動を起こしている。愛する甥の為にという、為に生きる想いが動機となっている。それは我々が言う原理的なものと非常に近いと思う。売上だ利益だと躍起になって、御父様の願いがその根底に本当にあるのか疑わしい今の我々より、余程原理的であり心情が中心にある。彼に引き継いだ事で縁を切るのではなく、彼を伝道することで益々縁を太く強くしていくことを誓った。言葉しか入っていない食口と比べれば、心情が既に入っている彼には、言葉だけ入れれば十分なのだ。

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