2014年6月23日月曜日

今日の想い 758

仕事を一段落させて帰ってみると、玄関ドアの隅にムクドリの雛がうずくまっている。鉄筋8階建てのアパートにも拘わらずどう迷い込んだのか、逃げ場のない閉め切ったアパートの通路に雛の音が響いている。おそらく誰かがベースメントのドアを開けっ放しにしていたせいだろう。そのドアを入って右突き当りに私の部屋はある。だからそこが雛の落ち着きどころだったのだろう。何とか追い遣ってドアの方へ誘き出そうとしたが、逃げ回りながら私の股を掻い潜って部屋の並びのある逆の通路側へと走り飛んでいく。そのままにして置くしかないと思い、一端は部屋の中へ入った。でもやはり気になる。暫くして、どうしてるかドアを開けてみると、開けたドアの隅にうずくまっていた。その場所がどうも落ち着くらしく、追い遣ったにもかかわらず戻っている。私は意を決してかごに代わる入れ物を手にして捕獲作戦を決行した。雛と言えども結構飛び回る。決して高く早く飛び回るわけではないが、それでもベースメントの通路を数往復した。他の住人が出てきた時どう対応しようか、あるいは黙ってそのまま捕獲に集中するか、そんなことを考えながら、、。そしてやっと捕獲した。捕獲した入れ物の中でばたついている。隙間から逃げないようにしっかりと抱えるように体で覆って、ベランダのドアを開けて逃がしてやった。ベースメントだから飛び立たずともそのまま茂みに隠れられる。一安心してソファーに落ち着いた。妻が、恩返しに来るよと冗談めかして口にした。しかし話はここで終らない。本当に恩返しに来た。いや、また舞い戻って来た。夕方近くなってドアの方でギャ-ギャ-音がする。ひょっとしたらと思ってドアを開けてみると、案の定ドアの隅に雛がいる。確かに先ほど逃がしてやった同じ雛だ。ベランダから外に出したのに、どうして締め切ったアパートの中に、それも建物内の全く同じ場所に戻ったのかわからない。雛に帰巣本能があってドアの隅を巣だと思っているのだろうか。早速先ほどの入れ物を手にして再度の捕獲にかかろうとした。その時、雛は飛び立って開けたドアから部屋の中に入り込んでしまった。一瞬遮ろうとしたけれど遅かった。良いことをしたとばかりに持ち上げてくれた妻が、今度は私を非難した。菌を持っているから早く見つけて出してくれと責めた。その態度には関わらず、物で溢れている部屋の何処に隠れているのか、四つん這いになり視線を床と平行にしながら隅から隅まで探した。テレビの台と壁に挟まるようにうずくまって動かないでいるのを、やっとのことで見つけた。流石に今度はしくじれないと、小さな隙間にも入る入れ物を見つけて狙いを定めると素早く確保した。しかし狙いどころが悪かったか雛の首が入りきれず首を押さえ付けて絞めるような格好になってしまった。何とか押し込んで幸い傷は負わさなかったが、不手際に心が痛んだ。今度は帰ってくるなとばかりに、わざわざ茂みの近くまで持っていって放してやった。その後、夜床につくまで、ドアの隅に蹲っていた姿や、首を押さえてしまって苦しそうな様子を忘れることができなくて、私の胸を締め付けた。またドアの隅に帰ってこないか、元気に飛び立てるのか、小さい頃、熱を出し大病を患ってベッドに蹲っていた息子の姿と重なって、この感情を一体どうしたものか扱いあぐねていた。

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