2008年5月7日水曜日

水沢里で その一

名古屋空港を飛び立つと一時間も経たずに金浦空港に着いた。初めての訪韓だがあまりの近さに驚いた。近くて遠い国という言葉が浮かぶがこれ程に近いとは思わなかった。空港では既に多くの兄弟でごった返していた。喧騒の中で僅かの説明が済むと、先導をしている人の見え隠れする旗を見失わないように付いていった。目に飛び込むハングル文字がここが韓国であることを示している。日本には無い高揚感の空気に包まれて、黙々と歩くにも興奮は隠せない。バスに乗り込んで一息ついたが用を足しておけばよかったと少し悔いた。乗車してくる一人一人の顔に視線が向いてしまうが、皆一様に晴れやかな面持ちをしている。席が満杯になると係りのものが運転手に声をかけ、バスは水沢里に向けて出発した。雑談で賑やかだった車内は動き始めると一瞬静かになったが、誰彼ともなくまた話し始めて賑やかになる。スモッグでうっすら煙るソウルの町並みを抜けると視界は開け、右も左も田畑が広がっている。話に聞いた韓国のパリパリ運転らしく、バスはエンジン全開で突っ走る。相当な振動で尻や腰が痺れるほどだったがそれもまた話の種で、激しい振動も苦にはならなかった。高校を卒業して直ぐに教会生活を始めたので、ここまでの道のりは長かった。それだけに内的な路程も決して平坦なものではなかった。いろんな場面が思い出せれ、記憶として内面に沈んでいたものが浮かんできて、その時その時の感情が呼び起こされる。心に刻まれた記憶のひとつひとつがこの祝福の為にあったのだと思うと感慨深い。車内の喧騒も静まって、中には寝入っていた者もいるようだが自分の内面は益々冴え渡り道中寝て過ごすことなどできなかった。ソウルを遠のいて車線は少なくなくなっていき、その内に舗装されていない田舎道を土埃をたてて走っていた。暮れはじめて雲ひとつ無い秋空が青を濃くしてくると、韓国独特の家屋が影絵のように遠くに近くに姿を現す。あちこちで野焼きが燻り、天に向かって真っ直ぐ煙が昇っている。沿道に咲き乱れる秋桜が土ぼこりをかけられながらも迎えてくれている。遠い昔、確かに車の中から同じ風景を眺めた記憶がある。懐かしい気持ちが内面に満ちる。向かいから来る、明々と室内灯を点けたバス数台とすれ違った。今日のマッチングを終えた兄弟達が皆笑顔で手を振っている。あれほどに厳しく女性男性と分けられて生活していたのが、男女で座っている状況に何か不自然さも覚え新鮮さも覚えた。車中の姉妹達は羨望の声を上げながら手を振り替えし、皆の期待を更に募らせながらそれぞれの想いを乗せたバスは目的地に到着した。

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