2026年1月20日火曜日

神楽を見る(その二)

 「八衢(やちまた)」という演目だった。神楽は子供の頃から何度も見に行っているが、この演目は耳に新しかった。興奮を覚えるには悪を成敗する鬼退治ものが手っ取り早く、神話の筋など知らなくても楽しめる。秋祭りの神楽は外が白々するまで夜通し舞い続けるが、最初の方は緩やかに舞う神々だけが登場するので子供には退屈だ。しかしやしろ内の電灯が消されて外の屋台からもれる明かりを頼りに太鼓のバチさばきが激しさを増すと、幕合いから煙火が焚かれ煙に包まれて鬼が登場する。興奮のボルテージもあがり、激しく舞う衣装の帷子が跳ね上がって観客に触れるほどになる。神楽村は舞台を見るかたちだから、目と鼻の先で舞うほどの体験は無理だが、それでも四拍子八拍子の太鼓を体に響かせながら舞を見れば誰でも高揚するはずだ。受け売りだけれども八衢は天孫降臨の路程で現れる眷属、西洋風に言えば大天使だと思うがこの天からの道を護る鼻高の猿田彦神(さるたひこのかみ)と降臨を導く天宇津女命(あまつうずめのみこと)との遣り取りを演目にしている。鬼も大蛇も出なかったが、この猿田彦神が結構な暴れ者で見応えはあった。娘も初めての神楽体験で、終わるや否や正月気分を味わったと口にして満足そうだし、本人の高揚した顔を見ると往復二時間費やした甲斐はあった。会場を出るとあれほど晴れ渡っていた空は灰色に覆われ、降雪は激しさを増し視界は数メートル。車をすっぽり覆った雪を腕で払い落し、なんとか運転に支障がないよう処置して帰途を急いだ。娘はやはり雪女だ。

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