2010年1月10日日曜日

プリズム光

離陸した機体はその大きな身体を傾けながら、白く煙る上空に吸い上げられてゆく。直ぐにも青空が広がる雲上に出るのかと思ったが、冬の雲は想像以上に厚いらしい。ある程度の高度まで角度を大きく取って上昇したあと、機体はゆっくり水平に戻そうとしている。その時点でもまだ視界は開けない。それでも高度を少しずつ上げながら、楕円の窓から太陽の光が差し込んできたのは飛び立ってから小一時間経った頃だった。既に機内食のプレートが配られ、箸を進めていた。地上から見上げればあれほど暗く灰色に被っている雲も、陽光溢れる成層圏では、光る白い雲海に様変わりする。機内に冬の柔らかい陽光が直接差し込むと、目の前のグラスに反射させ見事なプリズム光となって私に届けられる。青い光が届いたかと思うと緑に光り、黄だったり赤だったり、位置を僅かにずらしただけで届けられる光が違ってくる。受け取る光は色の違いによって異なる雰囲気を与えてくれる。それぞれの色の光にそれぞれの性格が備わっている。機内食のプレートを下げる為に声をかけたアテンダントに気付かないほど、私はその光に見入っていた。その光の存在達と戯れていた。最近気付いたのだが、実は同じプリズム光を生活圏内でも受け取ることができる。屋内、しかも私が経営している店舗の中でだ。昨年の秋、ダイニングを少し手直しした。寿司バーの化粧棚をつけたりカーペットを替えたりした。オープンキッチンなのだがあまりにも客席と近すぎて、見えなくてもいいところまで見えてしまうのでスモークガラスで幾分隠した。この取り付けたガラスがプリズムとなって、寿司バー内の立ち位置から見るとダイニングの照明光が分散して届く。人工照明であっても機内で出会った同じ光達に店で会うことができた時、地上のここまで尋ねて来てくれたのかと嬉しくなった。取り付けたのは今回の一時帰国の前だったから、その光存在に気付いていても良さそうなものだが、気付くことはなかった。と言うより、その時はまだ地上に降り立ってはいなかったと判断する方が正しい。その光に会うためには微妙な立ち位置と高さの調整が必要であり、ダイニングの照明の強弱も影響する。私は光の友達と呼んでいて、落ち込んでいる時に決まってこの光が届く。

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