2010年6月24日木曜日

CHIMNEY ROCK #ONE


エレベーターが作動していないので、上には階段を上って頂くことになります。サインのある入り口から山の中腹まで運転してきて、ドライブスルーの料金窓口でそう告げられ、一度は到底無理だろうと思って後ろに座っている妻に振り向き目配せしたけれど、娘とふたりで登ってきたらと言うので、料金を三人分払って取り合えず頂上のパーキングまで運転した。毎年、大抵夏の間一回はノースキャロライナの山間にあるここを訪れる。東西に長いノースキャロライナ州の西の端にあるアッシュビルと言う避暑地から、小一時間入ったところにそのお気に入りのポイントはある。東部アパラチア山脈にある、グレートスモーキーマウンテン、シェナンドア、両国立公園の中ほどに位置するが、差ほどメジャーな観光地ではない。訪れるアメリカンにその認識があるかどうかわからないが、今風に言うならパワースポットの一つと言った所だろう。しかし私に言わせればアメリカ大陸の中心的なエネルギー場であることは間違いない。三十年前、ノースキャロライナの州都の近くにレストランがあって、暫くそこで店長をしていた時は西の端のそこまで二時間近くかけて、小さい子供を連れてよく行っていたが、ここからだと優に八時間はかかる。往復で十六時間かけて行くことになるけれど、それ以上の価値はあると思っている。そう頻繁に行ける訳ではないが一年に一度は訪れたくなる。山頂に程近いパーキング場から上方に頭を巡らせば、大きな岩肌がせり出すように頂上に向かっている。岩肌に吸い付くようにギフトショップがあって、その横からエレベーター乗降口までの長い大きなトンネルが岩肌から掘られているが、トンネル内の照明も消され、入り口には浸入禁止のサインが無造作に置かれている。それが目に入ると一縷の期待も失せて、高さビル三十階に相当する登りルートを登ることを決意させられた。確かに少し考えれば、何の肉体的精神的犠牲も払わずにパワーを戴こうとするのは虫のいい話ではある。せめて汗をかいてこそ受け取れるものを受け取れるのであって、何の代価も払わずには、謙虚な受け取る姿勢すらも準備はされないだろう。そんなことを思いながら、妻をギフトショップに待たせて、娘と一緒に登り始めた。登りルートと言ってもほぼ垂直な岩肌に、見事に階段が頂上まで取り付けられている。そんな感心も最初の内で、そのうち心臓が破裂するほど息は上がり、汗は滝の如く、時折気が遠くなるほどで、今年二十歳の娘も最初は、何が悲しくて父親の尻を顔面にしながら登らないといけないのかと減らず口をたたいていたが、日頃運動をするでもなく殆ど私と同じような状態で後を付いて来た。二十分近く登って岩が大きく迫り出した最後の難関を越えると、眼前にチムニーロックがその威容を現して来た。星条旗がはためく頂上に辿り着くと眼下に広がる地上世界を見渡し、快い風に熱を帯びた身体を預けると、為し遂げた爽快感を岩清水のにように溢れさせてくれる。確かに精誠を尽くすに応じて、いやそれ以上に受け取れるものはあるのだ。何の苦も無くここに立って来たのと、そして今回と比べれば明らかな違いを認識することができる。

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