2012年7月2日月曜日

ストーム

夏の遅い日暮れは、夜九時を回ってやっと闇が帳(とばり)を下ろす。その日の嵐はまさにその時に吹き荒れた。湿気の多いこの地域は、炎暑で蒸されると、大量の雨雲を発生させ、夕方を待たずに嵐となる。しかしその日は違った。耐えに耐え、抱える限界を超えて貯めこんだ雨雲が、地に押し迫るほどの黒く濃い重量感で上方に横たわっていた。黒い帳が下りて風もやみ、息を止める一瞬の静寂を待つと、最初の強烈な突風が起こって木々の葉を一斉に揺らした。屋内に居たとしても誰もが木々のざわめきを耳にして、ただならぬ怖気を背中に感じたはずだ。間を置いて第二の突風が起こる。より木々を激しく揺らし引き摺る尾もかなり長い。そしてその後は間を置くこともなく、立て続けに、あらゆる角度から荒れ狂った突風の龍が螺旋を描いて地上に突進してくる。枝葉どころか太い木の幹さえも喰いちぎり、巻き上げ、地に叩きつける。駐車場に並べた車も一様に揺れていて、軽い車だったら突風に浮いて倒されていただろう。雨を伴い始めても強風は一向に収まる気配がなく、横殴りの雨が地を叩き、窓という窓を叩きつけると、それに合わせたように電燈が明滅し始め、ついに電源は落ちてしまった。店のことが心配で、なかなか過ぎ去らない嵐にいらついたがどうしようもなかった。気を病んだためか随分長かったようにも思えたが、おそらく20分程度のことだったろう。過ぎ去ってしまうと、荒れ狂っていた様子が嘘のように静寂に変わった。大気は乾いて温度も下げた。しかし朝になって分かったことだが、この辺一帯、広範囲に亘る大停電という禍根を残していった。店が心配で、朝まだ暗いうちに手探りで準備して店に出かけた。ヘッドライトに嵐で千切れた枝葉が照らし出され、見ると結構大きなものまで散乱していて道を遮っていた。幹線道路の信号も軒並み消えたままになっていた。でも店のあるショッピングセンターの電配線は直ぐにも復旧したようで、駐車場を照らすライトも点いていたし、朝早いコーヒーショップでは室内灯も明るかった。安堵した。自分の店に入って冷凍庫、冷蔵庫を確認したが、在庫に影響はなかった。店を中心に一マイル圏内だけが夜の内に復旧したようだが、それ以外のエリヤは復旧に一週間を要するようだった。その日から、店には涼と明るい食事を求める客が押し寄せることになった。