2013年8月11日日曜日

妻の入院

「兄弟みたいだね。」 何度か御食事の要請を受けて、夫婦二人で御挨拶させて戴いたとき、御父様はそうおっしゃった。アダムとエバが兄弟であり双子であったように、妻と私も兄弟であり双子だ。双子は二人で一つだ。どうりで妻の足りないものを私は授かっており、私の足りないものを妻は授かっている。一つであれば、妻の負債を私が蕩減し、私の負債を妻が蕩減することでもある。妻の負債は少ないので私の蕩減は少なくて済み、私の罪と負債は多いので、その分妻の蕩減は多くなる。その日、体調の悪化を口にしながらも往復二時間近くの運転で検査を終えて大学病院から帰ってきたばかりだった。電話が掛かってきて直ぐに救急の方へ引き返せと言う。検査数値が悪すぎたらしい。言われるままに疲れた妻を乗せて病院に引き返した。そうして妻の入院生活がまた始まった。痩せた胸板にコードが何本も繋がれ、細くて枝のような腕からいくらでも血を抜き取られる。貧血が酷いのに一向に構うことなく抜き取られる。呼吸も浅く、救急につれて行ってから一晩おいた今日、様子を見に行くと酸素の管が鼻に刺さっていた。それを目にしたとき、一瞬でかつての痛々しい感情が胸の内に蘇った。夫婦だから、兄弟だから、そして双子だから、私の蕩減を妻が背負い、何度も血を抜き取られながら病苦として払っている。今まで何度腹を割かれただろう。侍の時代でもないだろうに、今は医者が侍に代わって腹を割く。私は妻に気の利いた言葉のひとつもかけられずに、ただ佇んでいるだけだ。寒くも無いのに背中がぞくぞくする。悪霊なのか何なのかわからないが、お前の罪を背負う連れ合いを見ろと、小突いて呟いているのがわかる。その呟きが背中をぞくぞくさせる。私は祝福を受けた。祝福を受けて、半分の私の、太古に離別して幾星霜も離れていたもう半分に奇跡的に出会えた。出会えたけれども、半分になった二つを元の一つに戻す過程で私の蕩減を妻が背負うことになった。夫婦は一体だ。地上の生を越えても永遠に一体だ。再び地上生を生きるとしても離れずに一体だ。私の暑苦しいほどに熱を帯びた血の循環が、ブースターケーブルでも繋いだように、今の今でも彼女に繋がれて充電されればいいのに、、。私の身体と妻の身体が、熱を帯びて気体化し、身体としても完全に一体になれればいいのに、、。

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