2009年10月28日水曜日

グランドキャニオン その一

何処までも一直線の道を走り続け、サインにそって幾らかのぼり気味に車を走らせる。パーク入り口のゲートを超えて更に走ると駐車エリアにやっと着く。降りてそこら辺を見回してもそれらしき景色は見当たらない。しかし人が流れている方向に足を進めていくと、峡谷を挟んで向こう壁なのか、地平線がせり上がるように急に現れてくる。山に向かうときはだんだんと迫ってくる感覚を覚えるけれど、グランドキャニオンは一瞬で眼前に光景を現し、急に違う世界に扉を開かれた驚きを覚える。最初にこの光景を発見した人は相当驚いたはずだ。できればここに関する何の情報も得ずに、何の期待感も持たずに、最初に発見した人と同じ状況でこの光景を目にしたかった。もし自分の親でも連れてくるなら何も知らせずに連れて行き、腰が抜けるほどの驚きを味わわせたいと思う。それが大峡谷の見方に違いない。驚きによる高揚感が谷の底を見たい衝動を引き起こし、せり出した岩場へ足を早める。人間としての本性なのか、峡谷の美を味わおうとするよりも何よりも、兎に角自分の位置を先ず確認したいらしい。皆が皆、手すりから身を乗り出して遥か底に霞んで見える川を確認するとやっと落ち着いたのか、おもむろに大峡谷全体を見回しながら鑑賞の姿勢に入っていく。確かに驚きはするけれども、これ程の大掛かりな景観を前にして自分はどういう感情をもとうとしているのか戸惑っている。雄大さを覚えて感激すべきだろうけれど自分の知る雄大さと言う概念を超えるものを目にしているようで明らかに戸惑っている。正直、この景観を目にすることで何を受け取るのか、何を教えようとしているのか解らず、取りあえずはカメラをあちこちに構えながら、そこら辺の観光客と同じ行動を取る以外なかった。その日は予約を入れておいた宿を見つけるため、暮れかかる前にはその場を後にしたが、あくる朝は日の出の峡谷を見ることにしていた。

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