2010年7月2日金曜日

ホタル

アパラチア山脈に沿って、山の中腹を走る81号線をひたすら北上する。夕食を済ませて帰路についたものだから出発すると直ぐにも眠気が襲い、ハイウェイのレストエリアで半時間ほど仮眠した。結局本格的にハンドルを握ったのは6時を回ってからで、順調に運転し続けても家に着くのは夜中の2時を過ぎる。それでも30分の仮眠は十分に体力を回復し、車は緩やかな起伏を快調に滑っていく。夏時間では八時半を過ぎてやっと暗くなり始める。助手席の娘はシートを幾らか倒して休み、右に視線をやれば助手席のウインドウから暮れかかった町並みが下方に広がっているのが見える。結構見た目よりは勾配が急なのか、坂道に弱いトレーラーは皆加速に手こずっている。追い越し車線をずっと走りながら何台も追い抜いていくけれど、思ったほどには速度メーターも上がってはいない。単調なハイウェイを走っていると、道路の両脇に微かに点滅するものが目に入ってくる。それが蛍であることに気付くまで少し時間がかかった。山伝いのハイウェイには照明灯は並んでいない。ヘッドライトが両脇をも照らすけれど、それでも蛍の光は確認できる。両脇に続くブッシュに道なりに蛍の光が点滅している。少し高みから全体の光景を見ることができるなら、天空の天の川が地上に映し出されたように見えたことだろう。夜に人工的な光の全てを絶やした時に、地上から発する光は火山活動に見るような不気味な光だけだろうかと思ったことがあるけれど、蛍の光も確かに地上的な光だ。蛍がどのような種別的集合魂、即ち蛍種の精霊として存在しているかは定かではないが、蛍が群舞する中にたたずむことで夏の暑さを冷まし、熱を帯びた魂は光の点滅の穏やかなリズムに揺らぎながら落ち着いていく。清平の心情の木に天使の光が鈴なりに群舞し、ロウソクの明かりのような暖かな光を灯しているように、どこか癒しの暖かさを覚えるホタルの光、蛍の精霊はより天使に近い存在なのかも知れない。81号線は平野のハイウェイとは違って、標高の高い位置を走っている。より天に近い位置を、蛍の光に導かれる形で走りながら、本来疲れて当然の長時間運転は、疲れるどころか癒されながら帰路に着いた。

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