2007年2月28日水曜日

40修

ブラインドを通して明るい日差しが室内を暖める。この冬は暖冬かと思いきや、先月の半ばから一変して、清平の冬を思い起こさせる日々が続いてきたが二月も今日で最後、春の訪れは三月の声とともにやってくる。私が参加した清平40修はアメリカの責任者用としては最初のもので冬真っ只中で行われた。16時間のフライトから空港でバスに乗り換え更に数時間を掛ける。短い冬の日、暮れかけたころあいにアメリカの兄弟を乗せたバスはその地に着いた。人里離れた山あいを走るころにはさすがのアメリカンも不安の為か口を閉ざしていた。バスから降り立つと皆の顔が更に強張る。容赦ない湿った雪まじりの寒風が氷に覆われた湖の方から吹き付ける。揺れる裸電球の下を、うつむき加減に兄弟たちが足早にうごめいている。今まで味わったことのないこの空気を理解しようとするが、なんとも異様な別世界であることには違いない。乗り合わせた兄弟と顔を見合わせ、意味もなく無言で頷くしかない。どよめく祈祷、太鼓の鈍い音、山肌に並ぶ天幕の数々、東洋人の自分ですらいかがわしさを覚える。西洋の兄弟はなんと不安だったろう。そんな状態だから集中できるようになるまで丸一日を要したが、人間は慣れるものだということが解った。そして事は六日目の最後のセッションの後起こった。動悸の発作が起こり止まらない。今までもしょっちゅう動悸はしていた。大きいのになると胸が苦しくなる。脂汗が垂れる。うずくまる。しかし10分もすれば落ち着いていた。しかし今回は止まる気配がない。30分経った頃嫌な予感を感じた。そして大母様のおられる宿舎の戸を叩いた。苦しさの為というよりは死が胸をよぎりそこら辺で倒れる前に一声報告しておかないと大母様に迷惑がかかると言う思いがあった。状況を説明するとその場で横になり大母様と助手の方おふたりで按手をして頂いた。不思議とその時、動悸は一瞬にして収まったがしばらく為されるがままにされていた。その間は申し訳なくて身が縮む思いだった。丁重にお礼を申し上げ宿舎を後にした。ととたん嘘のように消えていた動悸がまた始まった。一瞬立ち止まったが踵を返す気持ちはなかった。自分で甘受すべきものとの意識があった。かろうじて自分のテントまで歩き足を踏み入れると皆は泥のように寝入っている。立って居場所を探すも苦しく這いずって自分の持ち物のある場所まで辿り着いた。動悸はいっそう激しさを増す。皆休んでいるのに申し訳ないと思いながらも、唸りとも喘ぎとも何とも言えない呻きを押さえることが出来ない。横になるも余計に苦しく猫背で座っているしかない。うるさいと言うようなサインが端々から送られてきたがどうしようもない。見るに見かねた一人の兄弟がずっと背をさすってくれた。苦しいながらも有難かった。この兄弟の為に何が出来るか気が遠くなりながら考えていた。しかし動悸は一向に治まらない。ここが自分の終の場所ですかと天に尋ね続けた。霊界に最も近い場所が自分の霊界への入り口なんだと自嘲のおもいがわいた。御心のままにと言う意思が固まった最後のもがきが襲ったとき事態は一変する。腹の中に殆ど水しかなかったが全てをもどした。と同時にどす黒い気体のようなものが口から出た。暗がりの中なので見れるはずもないがそう感じた。動悸は一瞬にして治まり身体はうそのように軽くなる。新しい生命要素が地から上から満たされて活力を得る。自分は生まれ変わったという喜びと感動に包まれた。時計に目をやる余裕を得、その時丁度五時をさしていた。その後の路程は本当に楽だった。日を追うごとに弱っていく兄弟とは反対だった。七日断食もうそのように快適で自分は新生させていただいたと言う喜びでいっぱいだった。それまで二年近くも続いていた血尿もピタッとやんだ。頂いた恵みに対して感謝の想いは勿論在るが、信仰もない条件もない自分がどうしてこれほどまでという疑問のほうが今でも大きい。しかし良き証しとしてこれで終わるわけではない。肉体的に癒されたのには意味がある。それは感謝すべき恵みに違いないが、魂の願う事柄は別にある。癒されたこの身体で様々なる感情の渦に放りこまれる。これが出発点だったのだ。それぞれの兄弟で状況も環境も違うとは思うが絵に描いたような祝福家庭や生活はないと思う。こんなはずじゃない、と言う所からが出発だ。私の立場では、自分が病で悶々とする以上の試練を相対の病を通して味わい子供を通して味わう。天国と平安は同義語ではない。生を通して味わう様々な苦しいほどの感情を媒介としながら自分と天との心情の共通点をいとおしい要素として自分の中に見出したとき、それは自分と神様の関係だけの愛の宝物となる。感情の混沌のなかに浮かぶ飛行船のかたちで、あるいは感情の荒波のなかにそっと浮かぶ小船のかたちで天に通ずる心情は隠されている。この世の人間にとって地獄の様相を見せれば見せるほどに天に通ずる心情の要素をより探し出すことが出来る。清平は天国に最も近い。

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